最先端半導体の製造が台湾に集中していることのリスク

台湾特派員:諸治隆仁

台湾を拠点とする調査会社で、特にメモリーやファウンドリー市場のサプライチェーン分析に強みを持つトレンドフォースがまとめた2024年Q4のファウンドリーの世界シェアは台湾のTSMCが67.1%と、2位が韓国のサムスンで8.1%、以下中国のSMIC5.5%、台湾のUMC4.9%、アメリカのグローバルファウンドリーズ4.8%と続きます。1位のTSMCと4位のUMCを合わせると、台湾のファウンドリーだけで72%の生産を請け負っていることがわかる。つまり台湾で自然災害など、生産を妨げるような事態が発生すると世界のサプライチェーン、ものづくりが止まってしまいかねない。

半導体メーカーといっても事業形態はさまざま

AIによるものづくりを支えるNVIDIAのデバイスを紹介するジェンス

半導体メーカーの事業形態は大きく「IDM」「ファウンドリー」「ファブレス」の3つに分けられる。「IDM」は設計から製造、販売までを自社で一貫して行う垂直統合型の半導体メーカー。総合的にデバイスを手掛けているのは米・インテル、韓・サムスン、そのほかにメモリー専業の韓・SKハイニックス、米・マイクロン、日本・キオクシア、アナログ・マイコンでは米・TI、独・インフィニオン、スイス・STマイクロエレ、蘭・NXP、日・ルネサスが代表的。

自社では工場を持たず、デバイスの設計・開発に特化している企業、いわゆるファブレスもある。CPUやGPUメーカーとして知られる米・AMD、GPUやAIアクセラレーターの米・NVIDIAスマートフォン向けのチップを開発する台・メディアテックや米・クアルコム、さらにはアップルコンピュータも自社半導体プロセッサに特化しているが、このファブレスに入る。

一方、ファウンドリーは製造のみを受託するメーカー。ファブレスから生産を受託している。ただし最近は開発段階から、ファブレスと協業していることも少なくない。このファブレスで代表的なメーカーが台・TSMCなのだ。米商務省やボストン・コンサルティング・グループ、トレンドフォースなどの調査データによると、半導体デバイスの回路線幅が7nm以下の最先端プロセスでは90%以上がTSMCによる生産だという。

最先端半導体製造が台湾に一極集中していることのリスク

台湾・新竹市にあるTSMCのファブでは最先端半導体デバイスを生産している

台湾において半導体の生産が長期的にストップするようなことがあれば、世界のものづくりがストップしてしまうことになりかねない。危機的な状況に陥る可能性があるということだ。過去に台湾の半導体生産が完全に、かつ長期間にわたって止まってしまい、世界中のものづくりが止まってしまったことはない。しかし、生産が一時的に止まってしまったことで、世界的なパニックや半導体不足で、市場に混乱が発生したことは何度かある。

1999年の921大地震の被害によるメモリー不足と高騰

台湾中部を震源する大地震が、1999年9月21日に発生した。「921大地震」と呼ばれるこの地震での死者は2,000人以上、負傷者は11,000人以上。余震が発生する中、日本はいち早く、救助隊を派遣し、阪神淡路大震災での経験を生かした救援・救護活動したことがニュースで大きく取り上げられた。その後も自然災害が発生するたびにこのときの日本の救助隊のことが話題となることから、この地震を覚えている人も少なくないだろう。

地震直後に発生した大規模停電は当時も台湾の半導体生産拠点となっていた新竹にも及んだ。生産設備の再稼働には1週間から2週間を要したのだ。当時の台湾、TSMCやUMCは今ほどのシェアを持っていなかったが、メモリー生産においては相当量を受託していたことから、一時的に供給がストップ。その影響は即座に現われ、DRAMとよばれるメモリーデバイスの価格は数日で2倍以上に高騰、パソコンメーカーも部品調達が困難となり、出荷遅延が相次いだ。

このとき、世界市場は半導体製造が台湾に一極集中していることのリスクを初めて感じたはずだ。

コロナ禍と大規模干ばつで自動車の納期に影響がでた2021年

直近では2021年の半導体不足によって起きた市場の大混乱も台湾への一極集中を再認識させるできごとであったといえる。例年、台湾には多くの台風がやってくる。そこでダムの貯水量が増えていくのだが、2020年には一度も台風が上陸しなかったのだ。そのため、翌2021年、主なダムの貯水量は深刻な状態に陥った。

この2020年から2021年の台湾に発生した大干ばつでなぜ半導体製造を窮地に追い込んだのか。それは半導体の製造に欠かせない超純水の調達が困難になったからだ。台湾政府が工場用水の取水制限を実施して、半導体の製造が困難になっているところに世界的なコロナ禍。世界的に巣篭もりが加速したことで半導体の需要が大幅増加。これに伴って、世界市場は一気に半導体不足へ突入した。

トヨタをはじめとする大手自動車メーカーへの半導体デバイスの供給も一時的に滞ったことから、新車の納期が1年以上待ちとなったことは記憶に新しい。

台湾で半導体の生産が止まれば世界経済は大きな損失を被る可能性

2024年4月に発生した台湾東部沖での大規模地震では台北市内でも公共交通網がストップ

2024年4月、台湾の東部沖を震源とする大きな地震が発生し、TSMCやUMCの製造拠点がある新竹でも大きな揺れがあった。しかし、これまでの経験もあったことから、およそ半日で設備を復旧させた。しかし台湾においてリスクは地震だけではない。

現在、アップルコンピュータのiPhoneや、AI用に市場供給されているNVIDIAのGUIといった半導体デバイスは台湾のTSMCが担っている。仮に台湾で最先端デバイスの製造がストップした場合、ほとんどは代替えのきかないものであることから、世界市場は経済的に大きな損失を被ることになる。日本、米国、欧州が自国へTSMCの誘致を進めようとしているのか。それはこうしたリスクがあるからというのも背景にあるのだ。