カーボンニュートラル(CN)の取り組みは損か得か

 地球温暖化の主因とされる温室効果ガスの抑制に世界の関心が集まる中、日本政府は2020年10月、2050年までに国を挙げてカーボンニュートラル(CN)を目指すことを宣言した。このニュースが流れたとき、産業界では前向きに捉える人がいる一方で、否定的な反応を示す人も少なくなかった。否定派の代表的な意見は、「長引くコロナ禍の中にあって、今は業績の落ち込みをいかに食い止めるかを考えるときであり、とてもCNなどに取り組んではいられない」とか、「事業活動に電気やガスは必須であり、それらの使用量を減らすことなどできない」といったものだった。後者に関しては、明らかにCNについての理解不足と思われた。CNとは、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの排出量から植林や森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味するもので、単にエネルギーの使用量を減らすことではないからだ。

 それから2年半を経過した今日、CNの取り組みは、さまざまな業種で行われるようになった。大手メーカーだけでなく、いまや中堅・中小の製造業でもきわめて活発である。それだけCNについての理解が進み、プラス思考で考える経営者が増えたと言えそうだ。プレス加工メーカーの中にも、CNを意識してから、電気使用量の多い溶接工程をなくし、2部品をプレス絞り品1部品で完結させることで、62.9%のCO2排出量%削減を実現した企業もある。CN活動(業務改善)によりエネルギー使用量が減れば収益は上がり、そこで得た資金をもとに植林や森林管理をはじめ、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入に動けば、CN達成に近づくことができる。メリットはそれだけではない。CNを達成、あるいは積極的に取り組んでいることを世間にアピールすることで、新たな商機をつかむことも期待できるのだ。一時期、「CNの取り組みは損か得か」という議論が巻き起こったが、もはや議論の余地すらなさそうだ。

 問題は、LPGや重油に代わるガスの代替燃料である。プレスの前工程を担う鋳造会社などの場合、日常的な業務改善だけではCNの達成は難しく、どこかの時点で水素、アンモニア、合成メタン(水素と回収したCO2から合成されるガス)など、ガスの再生可能エネルギーの導入が必要だが、現時点では国としてこれらの代替ガス燃料を大量に確保する目途は立っていない。それでも賢明な企業は、将来の燃料の切り替えを想定したロードマップをつくりながら、今やれることをきっちりとこなしている。「ISOの認証取得が後に体質強化につながったように、CNもやらされ感でなく、やり甲斐をもって臨めば、会社はきっと強くなる」と前向きの経営者たちは口々に語っている。