01 異常診断 【いじょうしんだん】

あるデータセットやシステムの中で「他とは違う」異常なパターンや振る舞いを検出し、それを特定する技術やプロセスのこと。

ものづくりにおけるこうした役割は、もっぱら熟練技能者の五感による「検知」と経験的知識に基づいた「判断」に任されてきた。しかし、コンピュータやAI技術の発達でこうした熟練技能が代替できるようになり、現在ではコンピュータが主体となる技術を指す。 

センサーなどによって検出されたデータが通常の期待値から大きく逸脱している場合にその逸脱を「検知」し、問題の判別や存在する箇所を統計的手法やAIなどを用いて「判断」する。

コンピュータに人間と同じような判断・解析を行わせることであり、そのために人間と同じような学習を行う機械学習の技術が一般的に求められることが多い。

異常診断はさまざまな分野で使用されており、セキュリティ、品質管理、故障予測、医療診断、金融詐欺検出など、多くの分野で利用されている。

プレス加工における異常診断は、プレス機などの製造工程で使用される機械や金型、加工プロセスの他、加工された製品を対象に行われ、プレス工程の効率や品質管理向上の上でとても重要である。

具体的には以下のような問題の検出および解決するために行われる。

故障検知・予測: プレス機や関連するシステム、金型の異常や故障は、生産停止や修理コストの増加を引き起こす。機械システムの稼働状態や加工プロセスの変化を検知し、異常や故障をいち早く検出あるいは予測する。

安全性: プレス加工は高圧力や高速度で行われるため、安全性が重要。異常診断は、危険な状況や事故の可能性を検出し、労働者の安全を確保する。

品質管理: プレス加工製品は所望の寸法や形状、品質に加工されていることが重要。製品の割れやキズ、しわなどの不良は従来目視検査によって行われていたが、カメラや深層学習を用いたAI技術などで代替し、品質管理の向上や生産性に貢献する。

*データセット:ある目的や対象について収集され、一定の形式に整えられた画像やテキストなどのデータの集合体のこと。


02 インダストリー4.0 【いんだすとりーよんてんぜろ】

製造業におけるデジタル化と自動化の新たな段階を示す概念。ドイツで2011年に提唱された。

高度なデジタル技術とインターネットの利用を通じて工業プロセスを効率化し、製造業の未来を形作るビジョン。製造業におけるデジタル化、自動化、ネットワーキングおよびサイバーフィジカルシステムの導入を強調する考え方になっている。

インダストリー4.0の目標は、製造業の効率向上、品質向上、柔軟性向上、環境負荷の低減、新たなビジネスモデルの創出など。このコンセプトはドイツを中心に世界に広まり、その後の各国の製造業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)促進に向けた象徴的な取り組みとなった。

*サイバーフィジカルシステム:現実世界(フィジカル空間)での膨大な観測データなどの情報を、サイバー空間で数値化し定量的に分析することで、より高度な社会の実現を目指すサービスおよびシステム。


03 エッジコンピューティング 【えっじこんぴゅーてぃんぐ】

データ処理とそのための処理システムを、データの生成元や使用地点に近い「エッジ(Edge)」で行う情報処理アーキテクチャ(エッジコンピュータ)や考え方を指す。

例えば、プレス機周辺に設置されたセンサーとエッジコンピュータでプレス機の異常診断をリアルタイムに行い、その情報をネットワークを介して上位の情報システムに伝達する、といった取り組み。



従来、情報は集中処理してから現場の機器に提供されていたものが、エッジコンピューティングではデータ処理が現場の機器やセンサー自体、またはデータ生成元に近いローカルなコンピュータやサーバーで行われる。

これにより、情報の低遅延性、ネットワークトラフィック(特定の時点でネットワーク上を移動するデータの量)の負荷低減、セキュリティ向上、オフライン可動性の向上といった利点が得られる。

IoTやスマートシティ、産業自動化、ヘルスケア、自動運転車、小売業など、さまざまな分野で利用されており、デバイスとネットワークの進化に伴いますます重要性が高まっている。

*オフライン可動性:製造設備が停止している状態でも、製品を製造するために必要な情報を保持していることを指す。つまり、製造設備がオフラインでも、製品の製造が可能であることを示す。


04 遠隔監視 【えんかくかんし】

ものづくりにおける遠隔監視(Remote Monitoring)とは、ものづくりのプロセスや設備を遠隔で監視し、データを収集・分析し、問題を検出または予測する技術および行為のこと。

具体的にはセンサー、カメラ、センサーネットワーク、IoTデバイスなどを活用して、生産システムや工場全体の稼働状態を、情報ネットワークなどを介してリアルタイムまたは定期的に収集し、それを遠隔でモニタリングおよび分析する。

ものづくりにおける遠隔監視の重要性は効率性、品質管理、メンテナンス、生産性向上、人材不足対策などの上から近年ますます重要度が高まっている。

具体的なメリットとしては、製造プロセスや設備の状態にリアルタイムでアクセスできるので生産性向上が図れること、機器や設備の故障を予測しメンテナンスのタイミングを最適化するのに役立つこと、センサーやビジョンシステムを使用して製品の寸法、形状、外観などを監視し、製品の品質向上が図れること、海外に展開する製造拠点の状態を効果的に把握しグローバル生産の最適化が図れること、等が挙げられる。


05 遠隔制御 【えんかくせいぎょ】

ものづくりの工程や機器を、遠隔から操作および制御する技術および行為のこと。遠隔制御は、通常、通信機能を持った制御デバイス、センサー、ソフトウェア、ネットワークを使用してものづくりプロセスを遠隔監視し、必要に応じてリアルタイム制御することによって、生産プロセスの最適化、異常診断や予防保全、人的リソースの最適配置、災害対策などを目的とする。

工場の分散化に伴い、競争力の維持、向上のためにますます重要な技術になっている。


06 画像処理 【がぞうしょり】

コンピュータを使用して、デジタル画像を処理することによって改善、分析、変換、認識などの目的を達成する技術およびプロセスのこと。

ものづくりにおいて画像処理は、生産プロセスの効率性、品質管理、自動化、追跡能力向上などに不可欠なツールとなっており、業界全体で広く活用されている。

近年ではディープラーニングが手軽に利用できる環境が整い、製品の傷や形状不良などの品質管理、ロボットによる製造ラインでのピッキングや組立など、従来は人の目による検知や経験に基づく判断に頼られていたプロセスへの適用が容易にできるようになり、生産性向上や作業者の負担軽減などで大きな効果を挙げている。

静止画や動画などの視覚データを用い、フィルタリングや変換、ヒストグラム処理、特徴抽出などに関する様々なアルゴリズムが使用される。

*ヒストグラム:データを区間に分けてその区間のデータの個数や頻度を棒グラフで表した図のこと。


07 機械学習 【きかいがくしゅう】

ここ数年で、よく耳にするようになった言葉だろう。人間の学習に相当する仕組みを、コンピュータで実現するものである。一定のアルゴリズムに基づき、入力されたデータからコンピュータがパターンやルールを発見し、そのパターンやルールを新たなデータに当てはめることで、新たなデータに関する識別や予測等を可能とするAI手法の一つ。

機械学習を実行するには、大別して学習と推論という2つのプロセスがある。学習では大量のデータをコンピュータに読み込ませ、データを分析することで分類や識別、予測等を行うためのパターンを確立する。学習によって確立されたパターンを学習モデルと呼ぶ。

推論は学習モデルに未知のデータを入力し、確立されたパターンに従って実データの分類や識別、予測等を行う。



機械学習における学習プロセスは「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」に大別される。「教師あり学習」は、トレーニング用データとその正解ラベルを入力して学習モデルを訓練する方法である。具体的な例としては、大量のイヌとネコの画像をコンピュータに入力することで、コンピュータがイヌとネコを区別するパターンやルールを発見して学習モデルを作り上げ、その後は新たなイヌの画像を学習モデルに入力すると、それはイヌであるという回答が出せるようになることがあげられる。

機械学習の代表的手法としてニューラルネットワークやディープラーニング(深層学習)、回帰分析、決定木、ランダムフォレストなどがある。

「教師なし学習」では、正解ラベルを付けないトレーニング用データが用いられる。たとえば、それがイヌであるという情報は与えずイヌの画像データを入力して学習モデルを作成し、推論させるための新たなデータとして動物の画像が学習モデルに入力されたとき、それがイヌと呼ばれるものであるかどうかは判別できないものの、イヌとそれ以外の動物といったように区別できることである。

こうした特徴からデータを分類するクラスタリング化の用途に用いられる。代表的手法として主成分分析、階層クラスタリングなどの方法がある。

「強化学習」は一定の環境の下で試行錯誤を行うことが学習用データとなり、行動に報酬を与えるというプロセスを繰り返すことで、何が長期的に良い行動なのかを学習させる方法である。

例えば、二足歩行ロボットが歩く速度や脚の曲げ方について試行錯誤を行い、より長い距離を歩いた場合に報酬を与えるといったことを繰り返し、最終的には倒れずにスムーズな歩行が可能になる。代表的手法にはQ学習や深層強化学習などがある。

機械学習は、ものづくり以外でも画像認識、音声認識、自然言語処理、予測分析、自動運転、ロボティクス、医療診断、金融予測などのさまざまな分野で幅広く応用されている。

データが利用可能で、パターンが見つかる可能性がある場面で、機械学習は効果的なツールとなっている。

特に近年のAIブームは、ディープラーニングの目覚ましい発展に依るところが大きい。プレス加工でも製品の品質検査やプレス工程の異常診断などへの適用が進みつつある。

*ニューラルネットワーク:人間の脳神経系のニューロン(生物の脳を構成する神経細胞)を数理モデル化したものの組み合わせ。人工知能の基本。


08 クラウドコンピューティング 【くらうどこんぴゅーてぃんぐ】

インターネットを通じて、リモートのサーバーやネットワークリソースを利用して、データ処理、ストレージ(データの補完場所)、アプリケーションの実行などを提供する技術およびサービスのこと。

リモートで提供されるリソース(必要な素材や情報)が、インターネット上のネットワークによって、あたかも空に浮かぶ「雲」のようにどこからでもアクセス可能であることを象徴していることからクラウドと呼ばれる。

ユーザーは、コンピューティングリソースを自分のローカルコンピュータやデバイスに物理的に保持する必要はなく、必要なときに必要なだけリモートのクラウドプロバイダーから利用できるメリットがある。

代表的なクラウドコンピューティングとして、データストレージサービス、データベースサービス、ウェブサイトやアプリケーションが利用できる仮想サーバーやコンピュータリソースの利用サービス、Office 365やGoogle Cloud AIに代表されるアプリケーションサービスなどがある。

クラウドコンピューティングは、ビジネスをはじめとして個人、開発者など様々なユーザーや業界に対してスケーラビリティ(システムの拡張性)、柔軟性、コスト効率などを提供するため、現在幅広く利用されている。

*コンピューティングリソース:コンピューターシステムが計算やデータ処理を行うために必要な物理的または仮想的な資源のこと。例えば、CPU、メモリ、ディスク、ネットワーク、ソフトウェアなど。


09 クラウドプラットフォーム 【くらうどぷらっとふぉーむ】

インターネットを通じて、コンピュータリソースやアプリケーションサービスを提供する技術基盤のこと。

代表的なものとしてAmazonが提供するAWSやMicrosoftが提供するAzureなどがある。ユーザーはオンラインでプロバイダーが提供する仮想化された環境を使い、テータ分析やデータベース、AI、セキュリティなど多岐にわたるサービスを利用することができる。

ユーザーはハードやソフトを自ら用意することなく高度な機能が利用できるため、効率性や柔軟性、コスト削減などの利点を受け取ることができ、急速に利用が拡大している。


10 コンピュータビジョン 【こんぴゅーたびじょん】

コンピュータによる画像処理やパターン認識、機械学習、ディープラーニングなどの技術を駆使して、デジタル画像やビデオから情報を抽出し、理解する技術および分野のこと。

ものづくり分野におけるコンピュータビジョンの主なタスクは、製品の種類識別などの物体認識、製品不良の特定や異常物検知などの物体検出・識別、作業者やロボットの挙動などを解析する動画解析がある。

目となるCCDの高性能化、低コスト化、処理アルゴリズムの高度化により、コンピュータビジョンはものづくりの自動化、効率化、高品質化などをはじめとして、人の目の代替によって人手不足にも貢献している。


11 サイバーセキュリティー 【さいばーせきゅりてぃ】

コンピュータやネットワーク、ソフトウェア、データなどのデジタル情報を保護し、悪意ある攻撃から守るための対策や手法のこと。

データの窃取や破壊、改ざん、サービスの妨害などをもたらすウイルスやランサムウェアなどへの対抗が主な目的。そのために正当なユーザーの認証、データ暗号化、ネットワークの常時監視による不正アクセスの防止、ソフトやシステムの脆弱性の修正などを可能とする技術が開発されている。

一方、企業組織としてはセキュリティーポリシーをしっかり策定し、個人に対してそのポリシーを順守するような教育も重要になっている。

*ランサムウェア:ネットワークなどを通じて感染を広げるマルウェア(悪意のあるソフトウェア)の一種で、PC等の端末を人質に取り、仮想通貨などを要求する。


12 サイバーフィジカルシステム 【さいばーふぃじかるしすてむ】

サイバーフィジカルシステム(Cyber-Physical System)は、コンピュータのデジタルの世界(サイバー)と現実の物理的世界(フィジカル)を組み合わせ、相互に連携することで機能するシステムのこと。

英語の頭文字を取って「CPS」と呼ばれることも多い。サイバーフィジカルシステムの機能は、情報の流れに沿って、フィジカルの「収集」、サイバーの「蓄積」と「分析・最適化」、フィジカルの「活用(アクション)」の4つに分けられる。



プレス工程を例にわかりやすいイメージを挙げてみると、プレスシステムに設置された音や振動、力などを検知するセンサーでフィジカル世界の状況を把握。この情報をサイバーの世界に伝達し、現在のプレスの状態が分析される。

その上で求められる加工が行えるよう必要な制御情報を作り出し、それを再びフィジカルの世界に戻してプレスシステムを制御する、といった一連の動作となる。

このプレスの例はこれまで、知能化システムやスマートシステムと呼ばれていた。一般的にサイバーフィジカルシステムと呼ばれるものは、スマートシティや自動運転システムなどより社会的に大規模なシステムへ適用されたものだった。ビッグデータやAIなどの高度情報技術の発展により、大規模システムへの適用が可能となってきていることが大きい。

またSociety5.0やインダストリー4.0は、大規模システムのサイバーフィジカルシステムの実現を具体的にイメージしている。

サイバーフィジカルシステムの発展により、安全性、効率性、持続可能性などの多くの利点が得られ、ものづくりの他、交通、エネルギー、医療などの分野などで革新が進行している。


13 自律化 【じりつか】

ものづくりシステムにおいて、機械やシステムが外部の人の介入や制御なしに、独自に意思決定し、行動する能力のこと。

センサーやアクチュエータ(エネルギーを何らかの動作に変換する装置)、コンピュータシステム、アルゴリズム(問題解決のための手順)を活用し、機械やシステムがタスクを実行し、問題を解決し、目標を達成する。

自律化のために必要な要素は、機械システムやプロセスの内外の状態を収集するためのセンサー、収集したデータを基に状況を分析し、AIなどのアルゴリズムを用いたデータ処理・判断機能、判断結果に基づいてアクチュエータなどを制御する機能の3つ。

また高能率、高品質の維持が求められるものづくりにおける機械システムの場合、リアルタイム制御が求められることが多い。

*リアルタイム制御:データの収集・処理、およびシステムの更新を既定の時間枠内で行うこと。


14 深層学習 【しんそうがくしゅう】

ディープラーニング(英語名称)とも言われる。深層学習は、多層のニューラルネットワークを使用して、複雑なパターンや特徴をデータから自動的に学習し、高度なタスクを実行する機械学習の一種。

多層ニューラルネットワークは、入力層、中間層(隠れ層とも言われる)、出力層からなるが、通常のニューラルネットワークの中間層が1層であるのに対し、多数の中間層を持つ深い構造を持つことから「深層」と呼ばれる。代表的な多層ニューラルネットワークに畳み込みニューラルネットワークがある。

多数の中間層では、初めの中間層は低レベルの特徴を学習し、後の中間層はこれらの特徴を組み合わせてより高度で抽象的な特徴を生成する。これにより、データの階層的な表現を可能としている。

例えば、イヌの画像が入力層にインプットされると、入力層に近い中間層では毛1本1本が、次第に層が深くなると耳、鼻、目といったより細かなパーツの特徴が、中間層の最後に近づくと頭、胴体、しっぽなどのように大きな体部分の特徴が抽出されていき、最後の出力層で「これは犬だ」という答えを出していくといった処理イメージとなる。

深層学習は画像認識、音声処理、自然言語処理、異常診断などの分野で大きく成功しており、大量のデータと計算リソースを活用して高性能な学習モデルを構築する能力を持っている。現代のAIアプリケーションは、その多くが深層学習を基盤としている。


15 人工知能 【じんこうちのう】

英語名(Artificial Intelligence)の頭文字をとってAIと呼ばれることが多い。コンピュータシステムやプログラムに人間の知能や認知能力を模倣または再現させる広い概念の技術や分野を指す言葉。

人間の知能を模倣する技術として機械学習と深層学習があるが、機械学習は人工知能の1つの手法であり、深層学習は機械学習の1つの手法と位置付けられている。



人工知能が持つ主な機能として、データから知識を獲得し新しい情報を学習できること、さまざまなタスクや問題に対して効果的な問題解決策を発見できること、経営戦略の最適化や自動運転車のルート選択のように与えられた情報と目標に基づいて意思決定が行えること、人間の言語を理解し生成できること、センサーやカメラを使用して環境を感知しその情報を理解できること、特定の専門分野で高度な知識と専門家のような判断力を持つこと、等が挙げられる。

こうした機能実現には、コンピュータビジョンや機械学習に関する手法をはじめとして、統計的方法、次元削減などさまざまなアルゴリズムが用いられる。

人工知能の基本的な目標は人間の知能と同様に課題を理解し、適切に対処することである。そのため、すでにさまざまな産業分野や生活に導入され、大きな貢献を果たしている。

プレス加工においても、人間の持つ高度技能で支えられている加工条件や工程の最適化、目視検査の自動化、プレス機の異常診断や故障予測、生産スケジューリングの設計などへの適用が、今後さらに進んでいくものと予想される。


16 スマートファクトリー 【すまーとふぁくとりー】

最新のITや自動化技術を活用し、生産プロセスを効率化し、迅速に対応できる製造施設の新しい形態。品質向上、コスト削減、生産性向上、製品開発や生産設計期間の短縮、人材不足への対応、新たな付加価値の創出などを目的に、データ収集、分析、自動化、通信などの技術が統合される。

まずはIoTやビッグデータ、AIなどを活用してエンジニアリングチェーンやサプライチェーンのネットワーク化、自動化などを行う。その後「ニーズに即した製品設計」や「高い生産性・品質を有した生産」など、工場における業務全体の改革へとつなげる。

ものづくりを取り巻く環境は、DX化や人工知能、3Dプリンティングに代表される新たな生産技術の進展、ロボットなどの技術革新、資源の制約、消費者ニーズの変化など、今後とも大きく変化していくことが考えられる。

こうした新しい環境に対応するためドイツはインダストリー4.0というコンセプトを提案し、日本をはじめ世界各国も類似のコンセプトを提案している。

スマートファクトリーはそうした考え方を総称する概念ともいえる。ものづくりが競争力を高め、より持続可能で効率的な仕組みを構築していく上で重要なコンセプトとなっている。


17 3Dプリンター 【すりーでぃーぷりんたー】

3次元(3D)デジタル形状データをもとに、樹脂や金属などの素材を層ごとに積み重ねて3D形状の物体を作成する製造機械。積層造形装置、付加製造(AM)装置などとも呼ばれる。各層は溶融あるいは粉末状態で印刷されると、冷却や硬化プロセスによって素材が安定化され、新しい層は前の層にしっかりと接合されながら立体形状が作成されていく。

3Dプリンターによる造形メリットは、通常の機械加工では難しい複雑形状や内部形状が作成できること、材料の選択が多岐に行えること、また廃棄物削減につながるといった点。

一方、高コスト、低生産性、材質の不均一性や表面が粗いことによる追加工が必要といったデメリットもある。

しかし近年、金属を素材に用いた積層技術は急速に進歩し、こうしたデメリットが徐々に克服されつつあり、宇宙航空、医療、自動車産業などへの適用が進んでいる。

金属プレス加工分野では、バインダージェット方式などの3Dプリンターで金型を迅速に作製し、試作に適用するなどが行われている。今後、生産用金型への適用、薄物・大物部品への直接適用などが進展していくことが期待される。

*バインダージェット方式:金属の粉末にノズルから液体の結合材(バインダー)を噴射して固形化する方式。この方式は、結合剤をインクジェットノズルから固化場所にのみ噴射し、熱反応や化学反応を利用して固める造形法である。


18 3Dプリンティング 【すりーでぃーぷりんてぃんぐ】

物体の3次元(3D)デジタルデータをもとに、3Dプリンターを用いて物体を直接作成するための製造技術あるいはそのプロセス。

基本的な流れは、まず3DCADを用いて作製したい物体の3Dデジタルモデル作成する。次に3DCADのデジタルモデルを、3Dプリンターで使用できるよう、薄い水平スライスに分割、使用する3Dプリンターに合った各スライスの印刷パラメータを設定する。

これで3Dプリンターによる積層加工が可能となり、造形が開始される。できあがった物体はそのまま使用できる場合もあるが、サポートの除去を始めとして切削、研磨、熱処理、塗装などの必要な後加工が行われることも多い。

3Dプリンティングはものづくりを始めとして、医療、航空宇宙、教育、美術、建築などさまざまな分野で広く利用されており、今後の技術発展が期待される。


19 生成AI 【せいせいえーあい】

近年、話題になっているのが「Chat GPT」を初めとした「生成AI」。

あらかじめ学習したデータを基にして、文章や画像などの新しいコンテンツを作り出す能力を持った人工知能システムのことである。

入力されたトレーニングデータの規則性や構造を学習し、同様の特性を持つ新しいデータを生成することから生成AIと呼ばれる。

生成できるコンテンツは、文章や自然言語の理解・作成、翻訳、画像作成、音楽作成など多岐にわたる。これに対し従来の人工知能(AI)は、識別や分類、抽出、認識などの決められた行為の自動化が目的となっている。



生成AIでは、自然言語処理としてはTransformer、画像生成としてはGAN(Generative Adversarial Networks)といったアルゴリズムが用いられる。

自然言語処理用クラウドサービスとして開発されたOpenAIのChat GPTやGoogleのBERTはTransformerをベースとしていると言われ、サービスが開始されるやいなや急速に利用が拡大している。

その理由として、インターネット上に存在する非常に大規模なデータセットを使用して訓練されており、即座に多くの分野の知識が活用できること、さらに自然言語処理能力に優れることが挙げられる。またユーザープログラムの中でも手軽に利用できる高いオープンソース性を有していることも利用拡大の大きな要因となっている。

生成AIはテキスト生成、質問応答、文章の要約や翻訳、文章のクラス分類など特に自然言語処理の分野で利用が進んでいる。

ものづくりへの生成AIの利用は、新しいアイデアや課題解決策を考案したりする製品や製造設計問題への適用、独自の社内知識やノウハウを活用した技能伝承や人材育成、カスタマーサポートなど多方面への利用が考えられる。今後様々な利用が急速に進んでいくであろう。

一方、生成AIの利用にあたっては、いくつかの課題や懸念事項も存在する。主な課題としては、生成するコンテンツの回答の品質や信頼性、知的所有権、セキュリティやプライバシー等の問題が挙げられる。利用にあたってはこうした課題を常に頭に入れておかなくてはいけない。

*データセット:目的や対象について収集され、一定の形式に整えられたデータの集合体のこと。


20 センサー 【せんさー】

外部の物理的あるいは化学的状態に関する情報を感知し、それを電気信号やデジタルデータなどの形式に変換する装置やデバイスのこと。

収集されたデータは、コンピュータ、PLCなどの制御システム、または他の電子デバイスで処理や分析され、様々な用途に活用される。

サイバーフィジカルシステムにおいては、センサーはフィジカル世界の情報を収集するためのIoTツールの代表格といえる。センサーから伝えられた情報は、AIなどの分析システムを用いてフィジカル世界の現状把握として利用される。

そのため、より高精度、高信頼性にセンサー情報が検出されることが、全体システムの制御性能を向上させるうえで重要である。

ものづくりでは、その特有な環境のために使用できるセンサーが限られる場合が多いが、検知目的ができるだけ直接的に検知できるセンサーを選ぶようにしてシステムの高性能化を実現することがセンサー選択・利用上重要である。


21 畳み込みニューラルネットワーク 【たたみこみにゅーらるねっとわーく】

英語名(Convolutional Neural Network)の頭文字を取ってCNNと呼ばれることもある。人間の脳神経系の仕組みを模倣したニューラルネットワークの一種で、畳み込み層、プーリング層、入力層、全結合層から構成される層を追加したディープラーニングに属する手法。主に画像認識・識別に応用される。

入力情報の特徴を残しながら、畳み込み層とプーリング層を何層にも重ねることで複雑な特徴を少ない情報量で表現することを可能にしている。全結合層では抽出された複雑な特徴を結合した特徴量として扱い、組み合わせで予測や分類を行うことができる。

画像認識を例に挙げ、畳み込みニューラルネットワークの情報処理を説明しよう。

まず入力層には元となる画像データが入力される。画像は2次元なのでピクセル値の行列として表現され、入力層のユニットは画像サイズに対応する(例:32×32ピクセルの画像なら32×32=1024ユニット)。

入力された画像データは最初の畳み込み層に送られ、カーネル(フィルターとも呼ばれる)と呼ばれる小さなフィルターを用いて画像内の局所的特徴が抽出される。カーネルは画像上をスライドしながら、局所的な特徴(エッジ、テクスチャなど)を抽出する。カーネルは通常特徴の異なる複数枚が使用される。

その後プーリング層によって特徴の要約(情報の圧縮)が行われ、特徴の位置やサイズの微小な変化に対する頑強性を向上させる。

畳み込み層とプーリング層はペアで1ユニットとして使われ、通常複数のユニットが組み合わされた構成を取り、より抽象的で複雑な特徴の抽出を可能としている。全結合層では、受け取った特徴をフラットなベクトルに変換し、最後に確率分布を用いて予測結果を表示する。

畳み込みニューラルネットワークは「教師あり学習」の一形態であり、大規模なラベル(正解)付きデータセットを使用して学習が行われる。これまで画像認識や物体検出、顔認識、自然言語処理などの分野で優れた成果を上げている。

ものづくりの分野では製品の品質検査工程における作業者の目視検査の自動化を目的にする場合に応用される場合が多い。


22 知能化 【ちのうか】

人間が持つような認識、識別、予測、意思決定などの知的な機能を具備し、より高度なタスクや問題に対処できる機械システムやプロセスを実現することを指す言葉。

ものづくり分野ではインテリジェント化などとも呼ばれたが、現在ではより社会システムを意識し、快適性や利便性を向上させるプロセスの実現も含めた概念であるスマート化という言葉に含められることが多い。

ものづくりにおいて知能化を一般的に実現するアプローチは、センサーや機械システムから収集されたデータを活用し、AIや機械学習、統計的方法などを用いて収集されたデータを分析し、目的に向かって作業が自動で遂行できるような自動制御機能を備える場合が多い。機能構成ではスマートファクトリーと似ている。


23 データ解析 【でーたかいせき】

収集された多種多様なデータを分析した結果から、一定の法則性や共通点を見出し、問題の解決に役立てること。データ分析とも言われる。

与えられたデータセットから有用な情報やパターンを周波数分析などの信号処理法、統計的手法、機械学習などを用いて抽出し、その傾向や相関関係を発見することによって適切な意思決定を行うことを目的にする。

例えば、プレス加工において、加工中の圧力、温度、変位などをセンサーを用いてデータ収集し、何らかのデータパターン分析法を用いて解析を行い、異常と認められれば、すみやかに異常回避のための制御動作を行う、といった例が挙げられる。

データ解析はものづくりをはじめとして科学研究、マーケティング、医療、金融などのさまざまな分野で広く応用され、IoTやAIを用いたシステムを構築する上では必須の手法となっている。


24 データベース 【でーたべーす】

情報をデジタル形式で整理し、保存や管理、検索などを効果的に行うための仕組みやシステムを指す。たくさんのデータ(Data)が、1つの土台(Base)で管理できることから「データベース」と名付けられ、「DB」と省略されることもある。

情報はテキスト、数値、画像、音声、ビデオなど、さまざまな形式で保存される。データベースの一般的特徴は、情報をカテゴリや属性に基づいて整理し、データを効率的に検索、追加、更新、削除できるように設計する。

データベースは情報の効率的管理や利用ばかりでなく、新たな価値を生み出すことにつながるため、DXの推進の上で最も重要なツールの一つになっている。


25 デジタルツイン 【でじたるついん】

現実空間をコンピュータの中(デジタル仮想空間)にコピーしたもの。仮想空間の上に現実の世界が再現され、2つの世界が「双子(ツイン)の状態」になることを目指すことからデジタルツインと呼ばれる。

デジタルツインには現実空間のデジタル複製モデル、言い換えれば一種のシミュレーションモデルが構築されている。

このデジタル複製モデルを駆動させるために、センサーやIoTなどを使って現実空間の情報をデジタルツインに伝え、デジタルツインにより現実空間の将来を予測した結果が現実空間にフィードバックされる。

サイバーフィジカルシステムに類似する考え方。

ものづくりにおけるデジタルツインの活用目的は多岐にわたり、効率向上、品質管理、保守、設計改善などのさまざまな側面で使われている。

例えば、センサーやIoTデバイスから収集されたデータをデジタルツインに統合することにより、生産ラインの生産性向上を図る。また、機械設備の状態をセンサーなどでリアルタイムモニタリングし、異常や故障を早期に検出する。さらに、新しい製品を開発する際に製品のデジタルモデルを仮想空間に作成し、そのモデルを使用して製品設計をコンピュータの中で最適化すること、などである。

今後デジタルツインが現実空間のより高度で複雑なシステムを再現し、現実空間を最適化するための強力なツールとなっていくことが期待されている。


26 デジタルファブリケーション 【でじたるふぁぶりけーしょん】

デジタルデータをもとに、創造物を設計し、作製する技術のこと。CADを用いた製品形状のデジタル設計データ作成から、それに基づいたCAMによる加工データの作成、CNC(コンピュータ数値制御装置)を備えた機器による加工や組立などのプロセスを含む。

狭義として、3Dプリンティングを指す言葉として用いられることもある。

デジタルファブリケーションは、コンピュータソフトウェアと統合されるため、設計から製造までのプロセスがシームレスに行える。そのため、設計と製造の一貫性が保たれ、効率性の向上、ヒューマンエラーの減少などが期待できる。

また、迅速なプロトタイピング、カスタマイズや小ロット製品の設計・製造、分散型のものづくりの実現等、DX推進に大きな役割を果たすことが期待されている。


27 デジタルプロトタイピング 【でじたるぷろとたいぴんぐ】

物理的な試作品を作成する前に、デジタルツールやソフトウェアを使用し、製品やデザインのプロトタイプ(試作品)を作成・評価すること。新しい製品やシステムの設計段階でのアイデアを試し、形にするためのデジタル手法。

例えば、自動車メーカーが新しい車をコンピュータ上に作成した3Dモデルを利用してデザインから車体強度などの評価を行い、設計改良に役立てる例が挙げられる。

デジタルプロトタイピングにより、設計の問題点や改善の余地を素早く識別し、修正することが可能になる。結果として、設計プロセスの早い段階でコストを削減し、効率を向上することができる。

デジタルプロトタイピングではデザインの他に機能や性能など様々な要素が評価されるが、設計段階において製品の性能評価に用いられるシミュレーションが重要なツールの一角をなしている。


28 ニューラルネットワーク 【にゅーらるねっとわーく】

人間の脳の神経網を模した数理モデルのこと。人間の学習メカニズムを機械で実現している。人間の神経網を構成する1つの神経はニューロン(神経細胞)と呼ばれ、その基本的構成は細胞体、樹状突起(神経細胞の一部で、神経細胞体から分岐している突起のこと)、軸索(神経細胞の細胞体から伸びる突起の一つ)の要素からなる。細胞体は情報処理の中心であり、樹状突起は他のニューロンからの信号を受け取り、軸索は処理信号を他のニューロンに伝達する。

この情報処理をコンピュータ上で模倣できるように数理モデル化したもの(人工ニューロンと呼ばれる)が、ニューラルネットワークの基本構成要素になる。

樹状突起にあたる人工ニューロン(以後単にニューロンと呼ぶ)の入力では、多数の他のニューロンからの情報がインプットされ、それぞれの樹状突起のもつ情報の伝え方の程度(これを重みと呼ぶ)で集められ、細胞体にあたる部分で伝えられた情報の総和が求められる。

総和は出力が調整(これを活性化関数と呼ぶ)され、接続されている他のニューロンへと送られる。

ニューラルネットワークは、このニューロンを層状に形成し、層間の結びつき(重み)を調整することによって情報処理を行う。

層は通常、入力層、中間層(隠れ層とも呼ばれる)、出力層で構成される3層ネットワーク構造を持つ。各層の1つのニューロンは次の層のすべてのニューロンに接続され、情報は入力層から中間層を経て処理結果が出力層からアウトプットされる。


29 バーチャルリアリティー 【ばーちゃるりありてぃ】

コンピュータによって創り出された仮想的な空間などを、現実であるかのように疑似体験できる仕組み。日本語では、仮想現実あるいは英語名の頭文字を取ってVR(Virtual Reality)と呼ばれる。

仮想的な空間は、ヘッドマウントディスプレイやVRゴーグルなどのデバイスを使用して、視覚的・聴覚的・触覚的な情報を全方位の仮想空間内でリアルタイムに提供。ユーザーにまるで現実の世界にいるかのような感覚を与える。

エンターテインメントを始めとして教育、医療、訓練、設計、シミュレーションなど、さまざまな分野で利用されている。

ものづくりにおいてもバーチャルリアリティーはさまざまな用途で活用されている。例えば、新しい工場や生産ラインの設計段階で設計アイデアを可視化し、工場のレイアウトや機器配置の最適化を行う。

また、作業者に対して工場の新しい機器や生産プロセスをシミュレートし、スキル獲得や安全トレーニングを支援する。

さらには、製造設備の保守や修理作業を目的にバーチャルリアリティーを使用して作業手順を視覚化し、事前に適切な保守訓練を行うこと、等である。

バーチャルリアリティーはものづくりにおける生産効率の向上、設計プロセスの最適化、トレーニングなどの分野で、大いに役立っている。


30 パターン認識 【ぱたーんにんしき】

画像や音声などの膨大なデータから、一定の空間的・時間的な特徴や規則性パターンを識別して取り出す処理のこと。特にコンピュータの利用を前提とする処理を指す。

識別するための手法としては、統計的方法、機械学習、深層学習などがある。AIの発展により、教師あり学習を用いて「学習」して「認識」するという流れでデータを蓄積していくことが一般的になっている。

現在、パターン認識の中で使われる頻度が高いものが「顔認識」、「音声認識」、「文字認識」である。

スマートフォンの顔認識機能や音声アシスタント機能、ユーザーの声コマンドで反応するスマートスピーカー、自動車のナンバー読取り装置など、日常生活の様々な機器や装置にパターン認識技術は取り入れられている。

プレス加工現場では、機械装置に設置されたセンサー類のデータの時間的パターン変化などを識別し、異常検知や予知を行ったり、品質管理で製品の外観異常をカメラを使って識別することなどが典型例となっている。


31 ビッグデータ 【びっぐでーた】

極めて大きなデータセットを指す用語で、通常のコンピュータシステムやデータ処理ツールでは十分な効率で処理することが難しいほどの大量のデータを指す。

近年では、スパコンのような高速・大容量処理が可能なコンピュータが登場し、さらにAIを用いた大容量データ処理もできるようになってきたので、大量のデータから価値ある情報を引き出してビジネスの展開につなげようという動きが一気に出てきている。

例えば、身近なものとして、インターネットの広告プラットフォームがユーザーの行動データを収集・分析し、ユーザーの好みに合うターゲット広告を配信する例が挙げられる。

また、交通データやセンサーデータを収集して交通流量の最適化や渋滞の予測を行ったり、医療業界では患者の電子健康記録や臨床試験データをビッグデータとして扱い、疾患の診断、治療法の開発、薬剤の効果の評価などを行うなど、特に大規模社会システムを対象にして効果的な意思決定やプロセスの最適化、新たな洞察の獲得のためにビッグデータが活用されている。

ものづくりにおけるビッグデータの適用例としては、品質管理と品質予測、予知保全、製造プロセスの最適化、製品設計と改良、サプライチェーン管理、カスタマーサポートなどが挙げられる。


32  品質管理 【ひんしつかんり】

顧客要求仕様の満足、不良率低減や生産性向上、さらに企業の信頼性向上などを目的に、製品の品質を一定の水準に保つための活動や取り組みのこと。

品質管理はものづくり工程全体わたって行われるものであり、次の3要素から構成される。

・工程管理:製造工程において、品質を維持するための仕組みやルールを整備。

・品質検査:製造工程の各段階で、製品品質を検査。

・品質改善:品質のばらつきを分析し、改善策を立案・実行。

品質管理には「7つ道具」と呼ばれる重要ツールがある。1950年代にアメリカの統計学者W.E.デミングによって提唱されたもので、現在でも世界中で広く活用されている。その7つ道具とは、

1.チェックシート:製造現場で発生する事象を記録するための表。

2.パレート図:品質問題の原因を特定するための図。

3.ヒストグラム:測定値の分布を可視化する図。

4.散布図:2つの測定値の相関関係を可視化する図。

5.特性要因図:品質問題の原因を分析するための図。

6.管理図:製造工程の品質を監視するための図。

7.工程能力分析:製造工程の品質を評価するための手法。

それぞれに異なる特徴があり、組み合わせることでより効果的な品質管理を実現することができる。

プレス加工現場でも品質管理の7つ道具は広く取り入れられている。

しかし、近年では、IoTやAIなどのデジタル技術の利用が活発化してきている。例えば、IoTを用いて生産状況をリアルタイムに把握し、品質に悪影響を及ぼすような機械やプロセスの異常を早期に発見・対応することや、製品の目視検査をCCDカメラによるデジタル映像とAIを用いた識別で自動化する動きが出てきている。


33 プロセス最適化 【ぷろせすさいてきか】

ものづくりのプロセスを分析し、効率や品質の向上、コスト削減、リードタイム短縮、資源の最適利用、環境への影響削減、競争力の向上などを主な目的に、製造ラインや製品を最適な状態に近づけること。

一般的に以下の手順がとられる。

1.現状分析: 現在のプロセスの問題や課題の特定。

2.目標設定: どのような改善を達成したいかを明確に定義し、具体的な目標を設定。

3.データ収集: プロセスのデータを収集し、分析のための情報を準備。

4.分析とモデリング: 収集したデータを分析し、ボトルネックや問題点を特定。

5.改善策の検討: 可能な改善策を検討し、その効果を予測。

6.実施: 改善策を実際のプロセスに導入。

7.モニタリングとコントロール: 改善が実際に効果を発揮しているかどうかをモニタリングし、必要に応じて調整。

プロセス最適化は、データ分析、品質管理、リーン生産方式、シックスシグマなどの方法論やツールを活用して行われることも多く、近年ではIoTやAIが重要なツールにもなってきている。

また、加工現場での何気ない気づきが、プロセス最適化のきっかけになることも多い。プロセス最適化を常に意識して作業に立ち向かうことが、企業競争力の向上のためには重要である。


34 マンマシンインタフェース 【まんましんいんたふぇーす】

人間と機械が情報の授受を行う境界部分のことで、それを可能にする技術やシステム、デバイスまたはソフトウェアを指す。ヒューマンインタフェースとも呼ばれる。

マンマシンインタフェースの登場の背景には、近年の機械システムの巨大化、高速化、複雑化に人間の情報能力が追いついていかないこと、また人間と機械間の情報伝達効率の向上のために機械操作の理解のしやすさや覚えやすさを向上させる必要があること、等の課題が挙がってきているためである。

近年の生産ラインやプレス加工機には、PCやスマートフォン操作に類似したタッチスクリーンパネルが採用され、優れた操作性が提供されているのは、典型例である。

マンマシンインタフェースは効率的な機械システムやプロセスの管理や品質向上だけでなく、ものづくり環境の安全性向上にも大いに寄与している。


35 見える化 【みえるか】

ものづくりを含む企業活動において、判断材料となる情報を誰もが客観的に認識でき、改善などに向けた行動へとスムーズに移行できる環境を構築する取り組みのこと。

1998年にトヨタ自動車の岡本渉氏の論文「生産保全活動の実態の見える化」において、目で見える管理として「見える化」という表現が使われたのが起源と言われている。

似たような言葉に「可視化」がある。可視化は様々なデータを、グラフ化したりマッピングしたりするときに、よく使われる。

見える化も可視化もブラックボックス化している情報を明らかにする点で同じだが、可視化は見えないものを見える状態にすることを目的とし、見える化はその先の業務改善までの目的まで含んでいる言葉と言える。

プレス加工現場で見える化する主な目的としては、

・熟練技能のような主観的で言語化や数値化が困難であり、他人に伝えるのが難しい知識(暗黙知)を共有したり伝承したりすること、

・作業プロセスを数値データなどで示してムダの改善を図ること、

・成果を部署内で共有し個々の成果や結果をオープンにすることによって、個人や組織のモチベーションを高めること、などが挙げられる。

見える化を実行する上で大切なことは、目で見てわかる状態にするためシンプルでわかりやすくしておくことである。そのためには誰もが共通の認識、判断基準で作業が行えるように作業標準書などを作成することが大切である。

また、これまで数値や言葉、記号などで表現できなかったものが見える化で表現できるようになることは、コンピュータ上でも扱えることにつながる。そのためDX推進のためには、見える化の実践が必須となる。


36 予知保全 【よちほぜん】

機械やプロセスの状態を計測・監視し、異常や劣化の状態を把握または予知して、部品の交換や修理あるいは制御を変えるなどして、生産プロセスの無駄な停止時間を最小限に抑え、メンテナンスコストを削減する保全方法のことを意味する。

プレス加工における具体例としては、

・油圧プレスの油圧、温度、圧力、振動などのデータをリアルタイムで収集、解析することにより油の品質劣化、シールの状態、ポンプの性能などの異常の兆候を検出すること、

・金型に取り付けられたセンサーを使用して、金型の温度、振動、歪みなどのデータを収集・解析し、金型の劣化や摩耗、異常な振動パターン、歪みなどを致命的な状態に至る以前に検出すること、

などが挙げられる。

予知保全の自動化は、加工システムの自律化につながることから、インテリジェント化、スマート化のための重要な実現機能の一つとなる。

そのため、機械やプロセスの状態を検知するためのIoTデバイスと、検知された情報を分析するためのAIは重要なツールとなる。

プレス加工現場でのIoTやAI導入の目的には、予知保全を挙げることができる。


37 リアルタイム制御 【りあるたいむせいぎょ】

製造プロセスや機器をリアルタイム(実時間)でモニタリングし、制御するためのシステムや技術。

リアルタイム制御が求められる理由としては、材料やエネルギーの無駄を減らし生産性を高めること、品質問題が発生した場合に迅速に対処できるようにすること、危険な状況を早期に検出し安全な状態に保つこと、生産設備の停止時間を最小限に抑えること、生産プロセスを迅速に調整し顧客納期に迅速に対応することなどが挙げられる。

リアルタイム制御を実行するためには、情報検出デバイスとしてのIoT、検出された情報の分析と的確な制御指令作成のためにAIが重要な技術ツールとなっている。


38 リアルタイムモニタリング 【りあるたいむもにたりんぐ】

ものづくりのプロセス全体や機器、生産ラインのさまざまな状態をリアルタイム(実時間)で監視し、収集した情報を即座に利用するプロセスや技術のこと。

プロセスの進行状況を把握し、異常や遅延を早期に検出する。ものづくりプロセスや機器のパフォーマンス状態を把握し、また製品の寸法や重量、外観などのデータを収集して品質管理を迅速、徹底化するなど、プロセスや機器の予知保全などが主な目的となる。

このようにリアルタイムモニタリングは、ものづくりにおいて品質の確保、生産性の向上、メンテナンスの最適化、生産計画の最適化など、さまざまな面で重要な役割を果たしている。

IoTはリアルタイムモニタリングの重要なツールとなり、求められるリアルタイム性に応じて的確なIoTデバイスを選択する必要がある。

現代の高度に自動化されたものづくりシステムや機器では、リアルタイムモニタリングによって検出された情報に基づき、その後の制御情報が生成される。そのため、制御の良し悪しは、リアルタイムモニタリングによって検出された情報の質に依存するといっても過言ではない。

基本は、求めたい情報を直接IoTデバイスで検出することであることを覚えておきたい。


39 DX 【でぃーえっくす】

Digital Transformationの略。経済産業省では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。

データやデジタル技術を活用する点においてはIT化に相通じるところがあるが、DX化はXに対応するTransformation(変革)に力点が置かれることを特徴とする。

IT化は従来アナログで行っていた業務や作業をデジタルに置換していくことを意味するが、DX化はデジタル技術により業務の在り方そのものを変えていくというように変革に力点が置かれる。デジタル化が目的ではないことに注意しなくてはいけない。



DXは多くの産業で使われているが、ものづくりに限れば「デジタル技術とデジタル戦略を活用して、製品開発、生産プロセス、サプライチェーン、顧客サービスなどのさまざまな側面を変革し、競争力を強化する取り組み」と言える。

センサーやIoT、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AIを活用して生産プロセスを効率化したり、目視による品質検査の自動化を実現したり、属人化している業務の見える化などが例として挙げられる。

DX化は今、最も求められている取り組みではあるが、DX推進のための設備投資費、DXに対応できる人材の不足、データ利活用に対する組織的な課題、社会の不確実性の増加など迅速な普及に向けて障害となる課題も多い。

しかし、グローバルな競争優位の獲得のためには、デジタル技術の進化と経済的な効果を常ににらみながら、DX化推進に向けた取り組みを続けていくことはものづくりの差し迫った課題である。


40 IoT 【あいおーてぃー】

「Internet of Things」の頭文字をとった略で、日本語では「モノのインターネット」と訳される。物理的な機器やデバイスがインターネットを介して相互に通信し、データを交換するテクノロジーのこと。

コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことを指す。Society5.0実現のための不可欠な技術である。

IoTの基本的な考え方は、人が能動的に働きかけずとも、モノが情報を感知して収集し、データとしてリアルタイムに送ることである。

身近な例としては、スマートフォンや音声アシスタントを使用して、遠隔で家の中にある家電製品や窓、照明などの状態をチェックし、必要に応じて遠隔でON-OFFなどのコントロールすることが挙げられる。

ものづくりにおいては、生産システムや機器などが現在の状態を検出するためのセンサーなどの検出デバイスを持ち、その情報をインターネットなどのデジタル回線へ発信したり、他のシステムなどから情報を受け取ったりできる機能も併せ持つことを一般的に意味する。

デジタルツインやサイバーフィジカルシステム、スマートファクトリーなどのDX時代のものづくりシステムにおいて、システム全体を駆動するための情報抽出の起点となる。

そのため抽出された情報の精度や種類、量の多さなどはシステム全体の性能、機能を左右する要の一つとなることに注意したい。

一般にIoTでは、大量のモノからの情報発信を基にしているので、IoTで収集・発信された情報はビッグデータになる。これらを分析し、データに基づいた的確な情報発信をしていくためにはAIの力に頼らざるを得ない。そのためによくIoTとAIという言葉が並列されて用いられることが多い。

IoTは今後ものづくりの多くの側面でさらに利用が加速化し、生産性、品質、効率性、競争力の向上などに大きく寄与していくであろう。


41 IPアドレス 【あいぴーあどれす】

IP (Internet Protocol)と呼ばれる通信規約を使うネットワークにおいて、接続されているコンピュータなどの通信機器を識別するために、各機器へ付与する番号の列のこと。各機器のインターネット上の住所に当たる。

IPアドレスには複数の種類があるが、主なものはグローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスの2種類である。

グローバルIPアドレスは、全世界で通用するアドレスで、世界中どこからでもデータ送受信の際に送り間違えのないよう、世界にただひとつ、インターネットに接続する際に割り振られるアドレス。よく見かける218.216.25.22のような数字4組の組み合わせで表記される。

プライベートIPアドレスは、会社など特定のネットワークの範囲内で用いられるアドレスのことで、そのためローカルIPアドレスとも呼ばれる。グローバルIPアドレスとは違い、そのネットワーク内で識別できれば良いので、他のネットワークで同じ番号が使われている可能性がある。


42 IT 【あいてぃー】

Information Technologyの頭文字をとったもの。コンピュータとネットワークを利用した技術の総称。

より具体的には、情報の処理、伝達、保存、管理、保護、および利用するための技術やシステム、プロセス、およびリソースの総称。

その範囲は広く、コンピュータやネットワークを始めとしてソフトウェア、データベース、セキュリティ、クラウドコンピューティング、人工知能、インターネット、モバイルテクノロジーなど、さまざまな技術要素が含まれる。

一方、ITとともにICT(Information and Communication Technology)という言葉もよく使われる。実際のところ「IT」と「ICT」の使われ方には大きな差異はなく、「IT」と書かれている文章をそのまま「ICT」に置き換えても問題になるようなことは少ない。

しかし、ICTには「コミュニケーション」という言葉が入っているので、SNSなどの情報発信を強調したい場合などにはICTが使われることが多い、


43 Python 【ぱいそん】

Python(パイソン)とは、1991年にオランダ人のグイド・ヴァン・ロッサム氏によって開発されたプログラミング言語。

アプリケーション開発、AI、データ解析など様々な用途に使用でき、チャットGPTの開発にも用いられたことなどから、現在世界中で用いられる主流プログラミング言語の一つになっている。Pythonは以下のような特徴をもつ。

・読みやすくシンプルな構文を持っており、人間にとって理解しやすいコードを書くのに適しているので、初心者にも容易にプログラミングの基本を学ぶことができる。同時に可読性にも優れるため、他の人が開発したプログラムの理解や継承がしやすい。

・コード1行ずつの動作を確認しながら開発できるコンパイラ型言語であるため、エラーがわかりやすく開発時間の短縮につながる。

・AI開発用言語ととられることもあるが、Webアプリケーションの開発やスクレイピング(Webデータの収集・解析)、データ分析など幅広い用途に活用できる。

・作りたい機能の土台となるフレームワークや、コードをまとめて使いやすくした部品であるライブラリーが豊富に用意され、フリーで利用できる。そのため大規模なプログラムでも少ない負担で開発することができる。

・オープンソースなので誰でも自由に利用することができる。これにより、コストをかけずに開発できる。

Python はものづくりのDXを進める上でも今後、中心的なプログラミング言語になるものと思われる。

DX化は開発コストや時間、メンテナンスなどの課題を考えると社内人材で対応していくことが望ましい。しかし、どうしてもプログラムとなると難しさが先に立ち、社内人材による開発をあきらめてしまうことが多い。

Pythonは多言語に比べて習得のハードルが低い言語である。エクセルのマクロが使えたり、プログラミングに興味のある者なら容易に習得できる。社内DX化のみならず、社内IT人材育成のためにも、ものづくり企業で積極的にPythonの習得、利用することが望まれる。


44 Society5.0 【そさえてぃごーてんぜろぃ】

わが国の科学技術の向こう5年間の方向性を定めた第5次科学技術基本計画(R3-R7)において掲げられた未来の社会ビジョン。従来の狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、そして現在の情報社会(Society 4.0)に続く次の段階として位置づけられている。

登場の背景として、AIやIoT、ビッグデータ、ロボティクスなどの高度情報技術が成熟し、これらを活用することで新たな社会システムの構築が可能となってきたことと、少子高齢化や地球環境の変化などの社会的課題が挙げられる。

Society 5.0の特徴は、デジタル技術を活用して物理世界(フィジカル空間)と仮想世界(サイバー空間、デジタルツインとも呼ばれる)を一体化させ、人間中心の社会デザインやエネルギー問題などの社会課題の解決、産業・教育・働き方の変革をもたらすことを狙っている。

総じて、Society 5.0はテクノロジーを単なるツールとしてではなく、社会の質的な向上や課題の解決に役立つ手段として位置づけ、持続可能な未来の実現を目指す考え方になっている。

このビジョンに基づき、わが国の政策、研究開発、産業界における取り組みが進められている。プレス加工を含むものづくり全体における近年の競争力強化策も、Society5.0のビジョンが根幹に据えられている。


45 VPN 【ぶいぴーえぬ】

Virtual Private Networkの頭文字の略。インターネット上に仮想の専用線を設定し、特定の人のみが利用できる専用ネットワークに関する技術やサービスを指す。

これにより公共のインターネット上でも、ハッカーなどの侵入を防ぎ、セキュリティの高い通信を確立することができる。通信内容の漏洩を防ぐだけでなく、自分の位置やIPアドレスも秘匿することができる。

リモートワークによる社内ネットワークへの接続、公共WiFiの利用などが増える中、オンラインセキュリティとプライバシー確保の上で重要なツールになっている。

VPNはネットワークプロバイダーによって通常提供されるが、選択肢は多数あり、それぞれ異なる特徴やセキュリティレベルを提供している。用途やニーズに合わせて適切なVPNを選ぶことが重要となる。